Ensemble of Enlightenmentと音楽監督 長岡聡季が挑む小編成のヨハネ受難曲

 Ensemble of Enlightenment (アンサンブル・オブ・エンライトメント)は、2020年の公演で、これまでの活動の集大成の一つとして、バッハの「ヨハネ受難曲」に取り組みます。同じくバッハによる「マタイ受難曲」という作品もあり、こちらの名前を耳にすることは比較的多いが、それに比して「ヨハネ受難曲」は耳馴染みが薄いものといえます。

受難曲とは、新約聖書中の福音書で描かれるイエス・キリストの受難(=十字架上での死)の経緯を、音楽にしたものです。福音書は著者の違いにより4つあり(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネ)、「ヨハネ受難曲」はこのうち「ヨハネによる福音書」を題材としたものです。キリスト教会では毎年春の受難節~復活節でキリストの受難を思い起こし復活を祝うが、その期間に行われる礼拝での福音書の朗読が発展し、受難曲の上演が行われるようになりました。

バッハは、ライプツィッヒの聖トーマス教会のカントール(=教会音楽家)に就任して初めて迎える1724年の受難節のために、「ヨハネ受難曲」を作曲しました。彼にとってライプツィッヒでの初の大仕事、さぞや気合いを入れて書いた、思い入れのある作品であったに違いありません。初演後も25年ほどの間に、再演されるたびに手を入れているため,この楽譜には4つのエディションがあります。このような複数の版が存在することは、当時の演奏事情、すなわち編成ありきではなく、供えられた楽器編成に合わせて楽譜を調整することを示しています。

ヨハネ受難曲の演奏時間は約2時間です。器楽及び合唱に加えて、ソプラノ、アルト、テノール(福音史家=ナレーター役)、バス(イエス)の4人のソリストが登場します。今回の公演では、合唱のメンバーがソリスト(テノールを除く)を務める画期的なものです。

音楽とは時間の芸術であると言われますが、ことに受難曲ではそのような色合いが強く感じられると思います。その一音一音、一拍一拍が、イエス・キリストの処刑に向けて歩んでゆくのです。タクトが振り下ろされた瞬間から、どんなに念じても、もう歩みを止めることも引き返すこともできません。演奏会では、この緊迫した情景を眼前に繰り広げ、皆様と濃密な時間を共にできるよう、メンバー一同、挑戦を続けていきたいと思っています。

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